皆さまこんにちは、編集わっしーです。今回は、また好きな小説の紹介をしようかと思います。
岡嶋二人の『クラインの壺』という小説で、ジャンルはSFミステリー。けっこう有名な作品なので、知っている人も多いんじゃないでしょうか。昔ドラマにもなったそうで、ドラマなら見たことがあるという人もいると思います。
この作品は、仮想現実(バーチャル・リアリティ)の技術を使った体験型ゲームをめぐる話です。バーチャル・リアルティは、最近ではVRとも呼ばれてかなり身近になってきていますが、今の技術ではまだゴーグルや、ヘッドセットなどを使って目と耳で楽しむのが精一杯という感じですよね。
ところがこの小説では、目と耳だけでなく体全体が大きな機械に包み込まれ、五感すべてを使って仮想世界を体験できるというものすごいゲーム機が出てきます。
大学四年生の主人公は、このゲームを世に送り出す前のテストプレイヤーとして開発会社の事務所に連日通い、ゲームの世界と現実世界を行き来することになります。しかしテストを進めるうち、次第におかしなことが起き始めます。一緒にテストプレイをすることになった女性がある日突然失踪してしまい、不審に思った主人公は調査を始めますが、調査するうちにこれまで現実だと思っていた世界に少しずつ異変が現れ始め、主人公は今いるこの世界が現実に限りなく近く作られた仮想現実なのではないかと疑い始めます。どこかのタイミングで、ゲームの中に閉じ込められてしまった?果たしてこのゲームの正体とは?開発会社の目的とは?
こんな感じのお話です。結末はなかなかダークな感じで、ちょっとぞっとする終わり方になっています。バーチャル・リアリティの技術はどんどん進歩しているので、もしかすると本当に近い将来こういうことが起きるかも?と思わされます。SFに慣れた人なら、現実に限りなく似せた仮想現実という題材は、もしかするとありきたりに思えるかもしれません。
しかし驚くべきは、この小説が書かれたのが今から30年以上前、1989年であるということです。なんと平成元年!当時と今とでは、コンピュータ技術に関する常識がまるで違います。それにもかかわらずバーチャル・リアリティという題材を扱い、しかも今の私たちが読んでもほとんど違和感がない描写をしているのはさすがの一言です。
もちろん、当時の常識で書かれた記述には、今との違いが目立つ部分もあります。例えば、仮想現実を扱うコンピュータのメモリ容量は「テラ」という天文学的な単位だ、という説明があります。その頃のコンピュータが扱えるメモリは数メガバイトあれば大容量という感覚でしたから、1メガバイトの100万倍である1テラバイト(1TB)は確かに天文学的です。
でも今では、テラバイトという単位も頻繁に耳にするようになりました。技術の進歩とは恐ろしいものです……
他にも、携帯電話がまだ普及していないので「ゲーム会社からいつ電話があるか分からないから留守番電話機能付きの電話を買った」など、当時を知る人からするとノスタルジックな描写がちょこちょこ出てきます。
留守電機能なんて付いていない固定電話が当たり前だったというのは、スマホが普通になった現代だとなかなかぴんとこない感覚かもしれませんね。
そんな時代背景も踏まえて読んでみると、この作品の凄さがより分かると思います。今回初めてこの作品の名前を聞いたという人は、ぜひ一度読んでみてください。
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