少し前のイベントで、たびたび話題に上ったホットな地名が釜山。語学出版社のHANAでは、この釜山で話されている釜山方言の入門書を出版しているのをご存じでしょうか? そのタイトルも『話してみよう!釜山語(プサンマル)』です!

慶尚道方言については、9月にワッシーが配信したブログ「ワンポイント方言文法」でも取り上げましたが、今回も慶尚道方言とこの本にまつわる話をちょっとします。

ワンポイント方言文法

釜山をはじめ慶尚道一帯では、ソウルの言葉とはちょっと違う方言が話されていますね。実はこの文を書いている私の本籍地も、(釜山ではないのですが)慶尚南道と北道の境の星州というところです。

私は2002年に生まれて初めて韓国を訪れました。その際、ソウルではほとんど不自由なく意思疎通ができたのですが、本籍地の村を訪れたとき、歓待してくれた村のご老人たち(遠い親戚たち)が私の手や顔をなで回しながら何を話しているのかがさっぱり理解できませんでした。これはショックでした。この体験が、上記の本を出したいと思ったきっかけの一つといえます。

本の構成は次のとおりです。

第1章 釜山マルの発音と文法
第2章 釜山マル実用フレーズ集
第3章 音声ドラマ「ジヘとジョンウの友情」

まず1章で釜山マルの発音と文法を学び、2章で実際の旅行や交流で使えそうなフレーズを練習します。最後の3章は、ドラマ仕立てになっており本場釜山の劇団俳優たちがベタな釜山方言で役を演じています。この3章は物語として、またリスニングの素材としてもちろん楽しむことができますが、1章で説明された文法がふんだんに使われているので、それらを使って「こういうときこういう」といった活用実例を学ぶにも最適です。

『話してみよう! 釜山語(プサンマル)』第1章

『話してみよう! 釜山語(プサンマル)』第1章

『話してみよう! 釜山語(プサンマル)』第2章

『話してみよう! 釜山語(プサンマル)』第2章

『話してみよう! 釜山語(プサンマル)』第3章

『話してみよう! 釜山語(プサンマル)』第3章

2章と3章の音声を使い、シャドーイングやリピーティングを行うことでよりリアルな方言アクセントを学ぶことができるでしょう。

1点残念な点を挙げるなら、釜山マルにはソウルの言葉と違って高低アクセント(日本語のように語によって抑揚が異なる)がありますが、その部分の学習はカバーできなかったという点です。各単語の抑揚に法則がないということですから、取り上げたすべての単語に抑揚マーク付けるか音声を付録にするしか方法がなく、さらには本書で取り上げていない単語すべてに同様のことが言えるわけなので、いたしかたないと思います。もし将来「釜山マル単語集」のような本を出すことがあったら、標準語と共通の単語にも方言特有の単語に対しても、こうした点をバッチリ補足したいと思います。

私個人的には、この本で釜山マル特有の語尾や表現を知ったことで、慶尚道方言を聞くときの理解度が劇的に高まりました。本を作る前が20%だとすると、現在では70、80%くらいに増えました(大げさではなく)。慶尚道も北と南で抑揚に大分違いがあるのですが、文法はかなり共通しているので、自分の田舎の老人たちとの会話も大分わかるようになりました。

ご本人が釜山マルを駆使する必要がなくても、ドラマで慶尚道方言を耳にする機会は多いと思います。慶尚道方言を使うの相手が何を言っているのか知りたいという人にも、この本はおすすめです!

この本を出した後、特に韓国から多くの取材を受けましたが、この本を作ったことで「全羅道や済州道など他の方言の本も作れるという手応えを得た」と答えました。「その方法として、なるべく多くの音声サンプルを集めて、そこから文法を抽出し…」と続けると、みな一様に「方言に文法があるんですか!?」と驚きます。

ありますとも。方言使いの人が普段意識をしないだけで、一定の決まり=文法がないと言葉が成立しないですから。逆に文法を学ぶことで、どんな方言もより早く効果的に習得することができるのです。この本はそういう本です。そしてこの私、他の方言の入門書を出すという野望はまだ捨ててはいませんよ!